2016年7月10日日曜日

アコースティック形式のミックス例⑤ リバーブのかけ方

リバーブの使い方を説明します。

関連記事も併せてお読みください。



【関連記事】
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・アコースティック形式のミックス例⑤ リバーブのかけ方



■作業説明の前にリバーブに関する小ネタ

リバーブタイムの定義をご存じでしょうか。

音を止めた瞬間から-60dbを下回るまでの時間のことです。

本やネットを見ても意外と書かれていないんですよね…。

ちなみに、-60dbは小さすぎてほとんど聞き取れません。

設定値と耳が認識する時間にはかなりの差があり、設定値の半分ぐらいの時間が実際に聞こえる長さだと認識しておくといいです(聞こえ方には個人差がありますが)。

ぜひ自分のリバーブで確かめてみて下さい。



■リバーブをかけるコツ

リバーブは聞いていて気持ちがいいのでレベルを上げてしまいがちですが、かけすぎには注意です。

広がりすぎて音像がボヤけてしまいますよ。

そして、ヘッドホンなのかモニタースピーカーなのかで聞こえ方が違います。

人それぞれにこだわりがあると思いますが、個人的にはリバーブの質感はヘッドホンでミックスする場合が多いです。

なぜかというと、現代のリスナーはほとんどスピーカーではなくイヤホンやヘッドホンを使うからです。

エンドユーザーの環境に合わせてミックスするのが自分のスタンスですね。




さて、本題に入ります。

音作りを終えてPANを振った状態での音を聞いてみましょう。

■音作り後、リバーブをかけていない状態



どのパートも音が近すぎますね。

広げすぎると古くさくなってしまうので、全体的に薄くかけるイメージで音を作っていきます。

まずはアコギから。



■アコギのリバーブ





Apolloに付属しているUAD-2版のRealVerb Proです。



■ここでちょっと脱線

僕はリバーブに関してはプリセットを活用する方なのですが、そこに入っている「Acoustic Guitar」を選び、「Mix」のパラメーターを100%(完全にW側)に変更しました。

DはDry(エフェクトがかかっていない)、WはWet(エフェクトがかかっている)のことで、Wの方に振り切っておかないと、センドで送った信号が100%リバーブに入らないので注意です。

ディレイも同様に、入力信号に対してのインプットレベルのバランスを変更できるパラメーターがあります。

ところで、センドとは何ぞや。

リバーブやディレイをかける時、各トラック毎にプラグインをインサートしていたら多くのリソースを消費してしまうので、通常はプラグイン1つに対して各トラックから必要なレベルを送る方法を使います。

どのDAWにも必ずFX(Aux)チャンネル機能が付いているはずですが、リバーブの場合まずはステレオのFXチャンネルを立ち上げ、そのプラグインスロットにリバーブを立ち上げます。

Cubaseだとミキサー画面に各パートから信号を別に送る「SENDS」というスロットがあるので、それを↑で立ち上げたリバーブのチャンネルへ送信。

実際にどんな感じなのか見てみましょう。





画像の一番左がAG1、2番目の紫色のフェーダーがRealVerb用のFXチャンネル。

AG1チャンネルの真ん中あたりに「SENDS」というスロットがあるので、それをRealVerbに指定し、センドレベルを決めます。

すると、AG1の分岐信号がRealVerbのインプットに送られ、リバーブがかかります。

センドの信号分岐ポイントがフェーダーの前か後かを変更できますが、デフォルト設定ではPost(フェーダーの後)になっているのが通常で、各トラックのフェーダーを動かすとそれに連動してリバーブのセンド量も変化します。

Preに切り替えるとフェーダーを通る前(プラグインスロットの直後)にポイントが設定され、フェーダーのレベルに関係なくリバーブがかかります。

フェーダーを下げきった状態にすれば、原音は鳴っていないのにリバーブだけ鳴らすということも可能です。

Cubaseでの切り替えは、インスペクタの「Sends」をクリックし、Sendレベルのスライダーの中心部よりちょっと上の部分にカーソルを持っていくと切り替えのマークが出現します。





本題に戻ります。

プリセットを選んだら曲のテンポや雰囲気に合わせてパラメーターを変更しましょう。

特にリバーブタイムはテンポと上手く絡むように設定しないと違和感が出てくるので適当に設定してはいけません。

偶然にも、この曲ではプリセットのデフォルトでちょうどいい長さだったので変更していませんが。

薄く広がる感じにしてみました。


■ピアノのリバーブ





普段はあまり使わないSonnox Oxford Reverbですが、せっかくなので久々に使ってみることにしました。

これまたプリセットでホール系を選び、リバーブの質感を確かめます。

いい感じだったので、曲のテンポに合わせてリバーブタイムを変更。

しかし、なんだか物足りない…。

こういう時は別なリバーブも一緒に混ぜてしまいます。

色々試した結果、アコギ用に立ち上げたリバーブを併用するとイメージ通りになりました。

こういうこともあります。



■ボーカルのリバーブ





Cubaseに元々入っているREVerenceというプラグインで、クリック機能が付いているのが特徴。

画面左の再生ボタンのようなマークをクリックすると「パン」という音が鳴り、その音に設定したリバーブがかかるので、ボタンを連打しながらいい具合になるようパラメーターを変更します。

これがとても便利で、他のメーカーのリバーブも全部この機能を付けて欲しいぐらいですね。

ボーカルのリバーブはプレート系を使うのが定番ですが、僕はそれにホール系を混ぜて使うことが多いです。

プレートはその名の通り鉄板(EMT-140という有名なプレートリバーブが元になっている)のキンキンしたハイ上がりな響き、ホールはコンサートホールの木材が反射する中音域が豊かな暖かみのある響きです。

これらが混ざることで、上も下もまんべんなく聞こえるゴージャスな残響が得られます。

各々のプリセットを選び、クリックしながら同じ残響時間、音量レベルになるよう調整しましょう。

プレートとホールの比率は6:4ぐらいで混ぜており、シャリっとした明るめのサウンドに仕上げてみました。

そして、もう一つのポイントがプリディレイ。

リバーブ音が鳴り始める瞬間のタイミングを調整するパラメーターで、よくボーカル用のセッティングで使います。

0msecに設定しているとすぐにリバーブがかかり始めてしまい、原音の印象が薄くなってしまうことがあるので、大体25〜40msecぐらいに設定して原音をある程度聞かせてから広がるようにすることが多いですね。

こういった細かいテクニックを覚えておくと音作りの幅が広がりますよ。

余談ですが、REVerenceは全部これでやっても大丈夫だと思えるほど完成度が高いリバーブです。

こんな秀逸なプラグインが標準搭載されているなんて、Cubaseはすごいですね。



■TD(トラックダウン)

これで今回のミックス作業はほぼ終了。

あとはフェーダーのオートメーションでボリュームの微調整をしたらTDです。

それでは、どんな音になったのか聞いてみましょう。



■TD後の音





今回はこちらのミックスがマスターとして採用されました。

もっと欲しいという話になるかもしれないので、もう少しリバーブを足したミックスも聞いてみて下さい。



■TD後の音(リバーブ追加)





リバーブをかけるのはミックスの中でも難しい作業の1つで、エンジニアの個性が出る部分と言ってもいいでしょう。

こうやって比較してみると曲の印象が変わりますよね。

これだからミックスは面白いのです。



以上、ミックスのプロセスを公開してみました。

マスタリングは趣旨が違うので、そのうち別記事を作ります。



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