2016年7月10日日曜日

アコースティック形式のミックス例④ ボーカルの音作り&オートメーション

歌もののメイントラックであるボーカルにこだわりがある人は多いと思いますが、音作りだけでなくオートメーションの書き方も交えて説明します。

関連記事も併せてお読み下さい。



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まずは元音を聞いてみましょう。

■Recしたままの状態





レコーディングではマイクまでの距離はおよそ20センチで、一般的なマイキングですね。

コンプは浅めの-3db程度のリダクションで、EQは使っていません。

胸声タイプのボーカリストなので、録りの段階でローの成分を大事にしたいと思いました。

近接効果(マイクに近付くほどローが出る現象)が程よく影響しており、心地よい低音が録れています。

EQ的には全体のバランスが非常に良く、あまりいじらなくていいんじゃないのという印象。

やはりU87Aiはすごい。

ダイナミクス的には多少のバラつきがあるので、気になる部分の波形を切り、クリップゲインをオートメーション代わりにしてバランスを整え、その上でコンプをかけた方が良さそうです。



■ディエッサーの設定





EQの前に、歯擦音が少し気になるのでディエッサーを使って抑えてあげます。

歯擦音とは、「さしすせそ」の発音時に空気が歯に当たることで発生する耳に痛い高音成分のことで、コンプを深くかけるほど際だってしまいます。

ブラックミュージックなどでわざと強調する音作りもありますが、個人的な嗜好で歯擦音は苦手なのでカットする場合が多いですね。

Cubase付属のディエッサーで、設定はデフォルトのまま使用。

4.5kHz〜15kHzが3〜4dbほどリダクションされるようにします。

カットし過ぎると不自然なので、少しピリっとした成分が残るように設定。

そのままEQの設定にいきます。



■EQの設定





アンサンブルになると少し埋もれてしまうのでハイを突いてあげます。

このEQはApolloで使えるUAD-2プラグインのオプションで、NEVE 1073を買うと使えるようになりますよ。

数あるEQの中からなぜこれを選んだかというと、ブースト時の音質変化が非常にクリアで滑らかだからです。

NEVEは全く歪まないので、今回のようにクリアなミックスをしたい時には重宝していますね。

逆にロックなどの勢い重視な音楽の場合はSSL EQのようにピリっと歪むタイプを使い、しっかりと目立たせるという使い分けをしています。

横道にそれましたが、左から3番目のツマミで周波数を7.2kHzに、4dbほどブースとしたらより明瞭になりました。

では、ディエッサー → EQを通した音を聞いてみましょう。



■ディエッサー&EQ処理後の音





すっきりと聞きやすい音になったと思います。



■コンプの設定





コンプといえばこれ、1176の実機を同社がプラグイン化したものです。

定番中の定番ですね。

ブラックの他にもシルバーがありますが、大きな違いとしては前者がトランス回路あり、後者はなしという具合です。

ブラックはトランスを通ることでハイがいい具合に落ち着き、その結果音が太く聞こえる音質変化が特徴的。

スレッショルドは固定されているので、まずはインプットを右に回してレベルを上げてリダクションのかかり具合を調整し、アウトプットでバイパス時と同じ聴感レベルに出力を揃えます。

アタックとリリースもちょっと変わっていて、左に回すほど数値が大きくなる設計です。

使ったことのない人には不思議な回路設計かもしれませんが、これが定番なので個人的には今さら使いにくいとは思いません。

平均で-5〜-7db、ピークで-10dbほどのリダクションがかかるように設定しました。



■クリップゲインによるオートメーション

前項で平均-5〜-7dbのリダクションと書きましたが、常にこれぐらいかかるようにクリップゲインでコンプへのインプットレベルを調整しています。

フェーダーで書くオートメーションとどう違うかというと、信号の流れがクリップゲイン→プラグインスロット→フェーダーの順なので、クリップゲインで調整しないとコンプのインプットに影響しません。

僕の場合はサビ基準でAメロ・Bメロなど小さい部分を同じぐらいの波形の大きさに調整し、大きすぎる部分を下げるというやり方が一番しっくりきます。

例えば、こんな具合に波形を確認しながら少し小さい部分を切って前後と同じぐらいに揃えてあげます。





見た目だけでなく、実際に耳で聞いて判断する必要があるので注意です。

常に-5〜-7dbのリダクションをかけている理由としては、コンプがかかることで起きる音質変化のバラつきをなるべく減らせるからなんですね。

そして、こうすることでフェーダーによる更に細かいボリュームのオートメーションはあまり必要でなくなります。

ちょっと面倒だとは思いますが、いいミックスに仕上げるためには必要な作業なので、何度も練習して作業速度のアップを目指して下さい。



それでは、クリップゲインとコンプで処理した音を聞いてみましょう。

■クリップゲイン&コンプ処理後の音






こういうった感じになります。

曲によってはコンプかけてますアピールをするような音作りもしますが、今回は静かな曲なので自然に聞こえる感じにしています。



以上、ボーカルの音作り&オートメーションでした。



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